薬害事件は何故日本だけに多発するか:何故新任医師は産婦人科を選ばないか…その日本的特長

薬害事件は何故日本だけに多発するか

大規模な薬害を繰り返した日本戦後史の特異事項。
どの薬害事例にも共通項が存在する。

①医師の処方する薬剤に多く、薬局による市販のものでない。
②世界からも注目された日本的構造「人災」の側面がある。=主として官庁、医学界、薬学界そして国民の薬への姿勢、三権分立への無理解、マスメデアの監視機能不全等


平成19年12月24日 朝日新聞1面 薬害C型肝炎一律救済へ 首相方針転換 今国会成立図る、議員立法で

福田首相は薬害C型肝炎訴訟について、原告側の求める全員一律救済を実現する方針を明らかにした。今国会に法案を詰め提出成立を目指す。内閣支持率の低下を受け局面打開を図る必要があると判断したと見られる。
原告側は首相決断を歓迎するとともに、①国は国民の命を大切にする②被害者が安心して暮らせる③薬害を再び起こさないの3点を全面解決の理念とし、新法が国の責任を明確にするよう要望した。


欧米の医師は1千人 日本の医師は1万人を年間診察する。それは20年前から始まっていた=産婦人科医減少の実態


西村書店2008年12月5日初版第1刷発行 近藤喜代太郎著「医療が悲鳴をあげている」を読む

第1章 医師、看護師が病院から去っていく
医師数


1994年から5年間で医師総数は16%増の256,668人、産婦人科は9%減で11,282人となった。(厚生労働省調査)
日本の出産数も長期低落してるが産婦人科はそれよりずっと早いペースで進行中。
日本産婦人科学会調査では、2005年、全国の分娩施設数は約5000から3000に激減した。その多くは大都市であり、市町村は大幅な減少。
高齢化し若い医師は産科にならない、平均年齢は50台
原因
どんなに努力しても結果が悪ければ訴えられる時代
①分娩のリスク理解の周知91%
②マスコミのゆがんだ報道58%
③オープンシステムの充実43%


小児救急

小児科医は10%増加しているが、地域間格差が大きい。岩手県では80%が大都市に集中。遠野市では小児科と産科がいないので50キロ離れた盛岡までいかなければならない。
乳幼児の症状は共働きもあり夜間緊急が多い。小児医療は即小児緊急医療であると言える。

二次医療圏
入院患者を受け入れ、高度治療、手術も出来る公立病院を中心にした医療圏全国に360ある。
365日24時間患者受け入れ態勢の病院体制が取れる二次医療圏で、220は未整備、113は将来も整備不可能。原因は95箇所で小児科不足。各県平均1割から2割減少。


※1次圏=市町村の身近で診療所、個人開業医が対応、病気の80%対処。
※3次圏=大学病院中心の圏、高度先端医療の展開
現在医師不足が起こっているのは2次圏、職住分離すれば宿直はなくなる。

第2章 知って欲しい医療と病院の現実

医療事故

産婦人科医は年に1,000人の内11.8人は訴えられている。
二人に一人は生涯に一度は訴えられる計算。
悪条件に耐え、必死に治療に取り組み、地域医療を支えてきたのに、産科の経歴をまっとうするのは難しい。
不測のリスクを内在している、思いがけない体の経過。医療は安全という神話。不可抗力を認めない世界唯一の日本。


病気と治療の本質

医療はまだ未知の部分も多い、不十分な情報、不完全な方法、行き届かない現実の製薬の中で治療を行う、1種の賭けでもある。医療を受けるとは虎穴に入って虎子を求めるに等しい。
病気が癒えるのは人体の自然治癒力によるものであり、医療はその手助けをしているに過ぎない。


国民の医療感は違う


医療は進み、出来ないことはない、検査は万能、医師は自分の病気を知ってくれている、
病気は医師が治してくれる。都会も地方もレベルは同じ、医療事故はあってはならない。
万一があれば医責任だ、=これらは全てNO否である。
検査は調べた項目が数値で現れるだけ、病態は検査項目複数をつなぎ憶測で判断の域を出ない、医学は断片的進歩してるに過ぎない、薬も医療行為も副作用を伴う、やってみるまでわからない、病気の本体は未知が多く、経験にもとづき治療している。経験の術である。

医療裁判

999例が救えて上手くいっていても1例が失敗なら救えた例は無視され1例が徹底的に調べられる。責任事故でなく不可抗力事故でも、医学の発展段階での事故と見做されず、00を怠ったため発生したと有罪になる。医療に内在するミスでも専門家でない裁判官の判断がなされる。

第3章 医療の安全、安心


医療事故の類型

①原因=医療過誤(医療ミス):不可抗力、医療行為が本来的に内在するリスクの顕在化
②責任=過誤の場合は医療側にいる:不可抗力の場合はいない
③解明、対策=過誤のケースはある:不可抗力のケースはない
④補償=過誤の場合は医療側が賠償:不可抗力の場合は社会的コスト

ニューヨーク州医療事故調査報告


米国医学界で今世紀中最高レベル調査と評価された報告書である。疫学的調査だった。
結論として医療事故の3割が医療過誤、ミスとされ、7割は不可抗力とされた。
医療事故の二つの類型を示している。一つは医療ミスであり、これは原因究明から対策がとれる。しかしもう一つは医療の学問的、臨床的研究が進まないと解明されないということである。
事故処理の仕組みをなるべく社会化すべきである。損失の分担。未知への賭けでもある医療の特質を理解し、被害は救済し、不可抗力を許容する社会になる以外、新卒医師は産科にならない。


明治の乳児死亡率=1000人当たり78人が新生児死亡だった

生物は卵や子を沢山産み、うまく育たないものは自然淘汰される。自然界の仕組み、掟である。人間も生物である。有性生殖の終点がお産である。個体発生と自然淘汰は他の生物と同じく仕組みが子宮内で続く。流産、死産、奇形、染色体異常など子宮内で生命を全うできない胎児は死ぬのである。自然の摂理である。ここに医療が登場する。自然摂理に逆らい医療の対象になる。
明治期まで10人生んで3人育てば良い方だった。
明治の乳児死亡率=1000人当たり78人が新生児死亡だった
大正=31人に減少、最近は1.6人である。これは世界最高水準だ。
妊産婦死亡率は現在10万人当たり2名。これは世界的に最低の数値より少し高い。原因は不明で民族的なものと考えられる。かっては5分の1か3分の1も亡くなった。
代表的な要因である産褥熱が感染症からくるとして手の消毒を推薦したゼンメルワイスは殺人鬼とさえ言われた。リスターの消毒法も多くの迫害を受けた。これらの先人の努力でやがて清潔な環境で医療の庇護のもと出産は安全なものに近づいた。



薬害は何故日本に多いか


薬害とは、副作用として受忍出来る限度を大幅に超え、医療品、製剤が重大な健康被害を生じた時の害のこと。外国語訳がない…日本的構造で生じる状況を暗示。
大規模な薬害を繰り返した日本戦後史の特異事項。どの薬害事例にも共通項が存在する。
医師の処方する薬剤に多く、薬局による市販のものでない。世界からも注目された日本的構造「人災」の側面がある。=官庁、医学界、薬学界、国民の薬への姿勢等


1、厚生労働行政
初期サインへの鈍感性、小事件を軽視、対応の後手、危機対応のなさ、薬学界との癒着
薬務局=薬学育成と安全性確保が混線、薬務局より監査対象の薬学界へ大量天下り

2、医療機関、医学界
薬学判定の科学性欠落、新薬への多大な依存、大量処方、副作用への取り組み不足

3、薬学界

資本の論理:大量生産消費、利潤過度追及姿勢、安全性軽視

4、国民
薬好きの国民性、権利への無頓着、保険知識自覚不勉強

厚生省(当時)生物製剤課長は、薬害エイズ事件で、危険な薬品を回収する立場にありながら漫然と見過ごしたとされ違法な不作為行為により有罪となった。毒が入っていると思いながら注射したと発言された班長。1400人が感染、500人が死亡。行政上個人責任を初めて問われた。危機への対処は省全体で行っていると被告は抗弁した。厚生1省が司る日本ひ比較し米国は、許可と動向調査、監査は別の省で行っている。情報の透明性、危機への機敏性、責任の明確性がまことにはっきりしている。

薬害への救済

医療品被害救済基金が設立されたのはスモン病被害者の願いから。しかし一番重要なのは薬害根絶するシステムの整備である。
①被害者への理解、
②医療民主化、患者の権利確立、
③製薬会社政治献金禁止、天下り禁止、
④、臨床薬理学研究深化など必要で「国民の命と健康が大切にされる社会」にすること・


第4章 医療と法、裁判

医療事故いついて、司法警察が医者を被疑者扱いし、取り調べる国は日本以外ない。これが医師が逃げる大きな要因である。
医師法21条=検案して異常があると認めたときは24時間以内に所轄警察署に届け出ないといけない。
医療行為は法的には債務行為であり、不十分な治療は不履行となる。民法の時効は10年
医療訴訟は年間約1000件、患者の権利意識向上、医療情報の普及、医療機関権威低下、弁護能力向上などが増加要因
裁判のポイントはやるべきことをきちんとやったかに尽きる。
裁判が社会的弱者を救済する正義を実現させることと、不可抗力も多い医療事故の責任を誰かに取らせ賠償させる、医師を罪に落とし被害者を多少助けられても地域医療が崩壊しては、結局患者が困ることとなる。
憲法13条、25条を根拠にしている医療の基本的努力義務者は国家と定まっている。


第5章 著者の提言


現在日本の警察、司法は、正常の医療でも結果が悪ければ、医療関係者を逮捕し罰してしまっている。世界に類型のない奇妙な道を歩み、地域医療を崩壊させる一翼を担っている。
医療事故処理の正常化=
① 裁判によらない事故解明システム整備
第三者による医療不審死の解明
② 健康保険制度と連動した補償の社会化
健保制度の中での調査と補償

医療費の国際比較

米国16.3、ドイツ10.9、フランス10.5、カナダ9.9 英国8.3、日本8
米国の「説明と同意に基づく医療」「インフォームドコンセント」が医療崩壊から救った
訴訟社会米国では防衛医療が多かった。損害賠償から医療機関が守りを固め一時医療が後退もした、しかし患者の自己責任をペーパーにサインしたインフォームドコンセントを起用してから風向きが変わった。


著者は北海道大学名誉教授、同大学医学部教授、新潟大学医学部准教授を歴任した経験から医療の現状に憂慮し改革案を提示している。実に細かく実態を報告し科学的に分析されている。

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