日本最低気温記録の町で起った血も凍る銀行支店長一家惨殺事件:昭和25年4月2日、北海道美深町は震えた

地方記者の原稿録」シリーズは、一朝日新聞地方記者が、送稿続けた戦前:戦中:戦後の地方発ニュ-ス原稿を今あらためて読み直し、平和を願い平和を壊され、しかし確実に生きていく地方の市民生活の一コマを少しでも窺うことが出来ればと発信するものです。

4、、昭和22年6月~26年8月 北海道旭川通信部時 


昭和25年4月2日 旭川警察署

朝日新聞旭川通信部藤田通信員は、その夜酔って自宅に帰りそびれ旭川警察署に泊まらせてもらうことにした。懇意な署員に頼み込みに成功した。会議室奥の衝立の陰の椅子を重ねて寝込んだ。これが幸いした。
署内のただならぬ空気に眼が覚めた。記者特有の鋭い嗅覚だった。
ドア越しに断片的に情報を聞き込む。「美深町、銀行強盗、殺人…」それだけで大事件と分かる。通信部主任金丸に電話した。金丸は言った「すぐ駅に向かえ、特急がある、美深に私も行く。30分後駅で落ち合おう。他の記者はいないな」「はい誰もいません」

朝日新聞旭川通信部

通信局主任金丸はすぐ美深署長に連絡を入れた。普段からの付き合いがこうした時に役に立つ。貴重な情報を聞き裏が取れた。札幌支局に第1報の連絡を入れる。支局でも緊急体制をとることになった。妻の栄子に「向かいはどうだ、様子を見て来て」向かいは商売敵きの毎日新聞通信局だった。栄子は長男の手を引き背中に長女を背負い子どもをあやす風体で外に出た。向かいは戸も閉められまだ暗い。人の出入りもない。「よし、スクープになるぞ、これから美深に行く、一家皆殺しの銀行強盗だ、現地から電話するから札幌に原稿を送ってくれ、家の電気は消しておいて、気づかれないように注意して」通信局長金丸は向かいを気にしつつそっと家を出た。藤田の待つ旭川駅に向かった。

美深の夫からの電話を妻栄子は初め震えながら聞き取り、事件の凄惨さが分かるにつれ不思議と震えが止まり、こうはしてられない、しっかりやらやくてはと落ち着き払い札幌支局に原稿を送った。
むしろ若い支局員の方が興奮気味に受けた原稿は次の内容だった。
この記事は全国版トップの特種になり、後に東京本社から局長賞を贈られた。
鉄道以外の交通がなく深雪の元での長期取材となり、事件は迷宮入りとなった。


昭和25年4月3日朝刊2版3版 
麻酔薬注射し日本刀で6名殺害、北海道で凶悪銀行強盗 100万円強奪


旭川発 2日未明1時半頃北海道中川郡美深町東1条北2丁目6、北海道拓殖銀行美深支店内支店長富沢義美(49)宅に白マスクの賊が押し入り、富沢支店長に日本刀を突きつけ、「金庫を開けろ」とおどし、「金庫の鍵は支店長代理が持っている」と答えると、富沢支店長を隣の支店長代理宅に案内させ、堀川寛三支店長代理49)と妻ふみ(44)さんを連れ出し、金庫を開けさせ現金100万円を強奪した。
更に支店長宅の寝室に、富沢支店長と、妻むつ子(42)さん、4女寿子(9歳)さん、5女政子(7)さん及び堀川夫妻を寝かし麻酔薬を注射、眼り込んだところを日本刀でノドを刺し、同3時頃逃走。富沢支店長は午前9時30分頃死亡、他の5名は即死した。
隣の部屋に寝ていた二女勇美子(20)さん、三女美登里(18)さん、四女寿美子(16)さんは無事で、出来事に気づいたが恐ろしくて起きられず明け方の4時頃近所に知らせた。
犯人は国防色オーバー、ゴム長靴の30歳位の男で銀行の内部事情に通じたものとみている。美深署ではただちに全道に手配した。

3人の子どもたち談  「痛い」と父の悲鳴

…犬の鳴き声で眼が覚めた。賊が父母の部屋に入ってきた。
フスマが開いていたので隣の様子は見えた。
賊は父を堀川支店長代理宅に連れて行く時、母に注射をした。
部屋に戻ってきて「3時間位で眼が覚めるから」と言いながら皆に注射した。
二人の子どもへは注射しなかった。
強盗が「隣にも子どもがいるな」というと父は「子どもたちは寝込んでいて朝まで起きない」とかばっていた。賊は3人の子ども部屋をのぞいたがよく眠っていると思い中へは入らなかった。父母のうめき声が聞こえたが怖くて寝ているふりをしていた。
刀のほかピストルを持っていた。
賊が帰ったのが3時過ぎ、4時頃父が苦しそうに「母と子どもたちは大丈夫か、自分も血がとまったから大丈夫、早く医者を呼んで」とかすかな声で言った…

3容疑者を召喚、美深の6人殺し:4月4日美深町にて金丸記者発 

北海道拓殖銀行美深支店を襲った凶悪な6人殺し強盗事件の現場は旭川から宗谷本線で3時間余りの残雪に凍てついた町である。
事件のあった1日の夜は拓殖銀行創立50周年記念を祝い、富沢支店長はじめ9名の行員で酒宴を開いていた。犯人はカギの無い薪小屋の窓から侵入したらしい。
現場は一面に血が吹き散っていた。注射の針1本とガーゼが1枚落ちていただけで遺留品は他にない。奪った現金はリュックに入れるだけ入れ持ち去った。金庫には約200万円あったが105万円程がなくなっていた。3日朝から北海道大学法医学教室上野教授などが解剖を行ったが麻酔薬の分析結果はまだ発表されていない。
捜査本部のある美深署には管区国警鑑識課や旭川方面隊など総勢30余名体制が執られている。3日朝捜査本部では有力容疑者として同町綿打ちなおし業K.0容疑者(34)とK。N(37)容疑者他1名を検挙し取り調べている。
 
4月6日 K.0容疑者を釈放、捜査は出直し

拓殖銀行事件捜査本部は5日K.0容疑者を強盗殺人の疑いは全くなくなったと釈放した。
旭川地検立石検事正は捜査会議でK.0容疑者を十分な捜査をしないで逮捕したことに反省するよう求めた。基本調査、各署との連携、捜査体制の強化を指示した。

5月3日 拓銀事件 捜査は足踏み 指摘される数々の手ぬかり

拓銀事件はこの2日で発生1カ月を経過した。捜査本部では単独犯でなく共犯関係があると推定している。
①、下手人は地元外の人間で既に美深にはいない
②、手引きの共犯は銀行内部に通じている地元人間
捜査の焦点は共犯者の発見に向けられているが決め手が無く足踏み状態で行き詰まりに苦境に直面している。
指摘された問題点は、まず署員が銀行前を犯行時刻に巡回したが異常を認めなかった、次に平常に朝1番列車を署員が警戒心が無く注意していない、この日も駆けつけたのは行った後だった。沿線の駅には手配したが車内乗客調査を行わなかった、凶器探しの川さらいを実施しなかった、富沢支店長の息のある内に機敏な臨床尋問を行わなかった、見込み捜査でK.0容疑者を逮捕し真犯人に時間を稼がせ、聞き込み調査もいたずら投書のあったK.0容疑者中心だった、かくして捜査はスタートからつまずいてしまった。

推理  本紙記者拓銀事件座談会=単独犯の見込み=

1、事件前の3月30日に拓銀旭川支店から美深支店に現金200万円が到着した事実を知っていた。
2、富沢支店長は弓道2段の気の強い人だが、事件当日は50周年祝いの酒宴が行われ酔って寝込んだすきを狙っている。
3、薪小屋の窓からは板1枚で進入可能であった。
4、残された3女の話では「犯人は落ち着き払い凄みを利かせていた」
5、金庫には1指も触れず現金だけを奪った。
6、自分を見た者を計画通り麻酔で眼むらせ凶行におよんでいる。
7、麻酔薬クロロホルムを使っている専門性。
8、懐中電灯を用意行動し、万一の為に銀行玄関のカギを外していた。
以上から浮かんだ犯人像は相当恐喝などに慣れた、したたかなインテリ的な人物と考えられる。地元もしくは近辺の者、縁故あるいは関係者がくさい。

9月  拓銀事件迷宮入りか 捜査の指揮系統混乱 

事件発生から5カ月がたったというのに捜査は全く振り出しに戻っている。
本事件が北海道検察、警察陣に与えた教訓は決して小さくない。
遺憾といわれる事項を列挙してみる。
①事件が小自治体管内で起こり、全道から集められた100名以上の検察、警察陣を誰が動かすか指揮命令系統が明確でなかった。
②署長は名目上の本部長で国警部課長、地検検事などが実質発言権を持った。
③検察、自治警察、国警察3者間で調整できず摩擦があった、遠慮がかえって犯人に時間を与えた。
④最も捜査に必要なスピードが無く連携がとれず、大事な証拠品が一事務官、一署員の手元に温められたりした例があった。鑑識結果が書類の下積みになっていたこともあった。
⑤今回の事件は物証が少なく、新刑訴下で例の無い凶悪犯行であったことなど難事件であることに異論はないが、旭川地検と国警の感情的対立などしながらの捜査は真相がついにここまではっきりしないとするならば首脳部の責任問題まで発展する可能性が生じると一部では見ている。


戦後混乱期の犯罪


 昭和20年8月15日の敗戦後、物資不足と道義観念等の低下で犯罪は急増。
刑法犯認知件数は、昭和21年は前年の約2倍、昭和25年は昭和20年の約3倍に急増。
特に、すさんだ時代を反映した凶悪事件が続発した。


北海道中川郡美深町

美深町は、上川支庁管内の北部中川郡に位置し、稚内市と旭川市を結ぶJR宗谷本線 ・国道40号のほぼ中央で、西方に天塩山地、 東方に函岳を主峰とする北見山地を望む盆地に開けた町です。 また、町内を道内第2の天塩川が南北に貫流し、北は音威子府村、南は名寄市、東は雄武町・枝幸町・歌登町、西は雨竜郡幌加内町・中川町に隣接。面積は672.14K㎡の広大な面積を擁しています。

基幹産業は農業、酪農、林業。留萌支庁北部遠別町と並ぶ稲作の北限地

美深町で1931年1月27日観測された「-41.5℃」が気象庁公認の日本の最低気温記録である。


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自由国民社発行「口語民法」に学ぶ

第5章  法律行為

第104条 「任意代理人による復代理人の選任」

委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。


労働基準法 労務行政発行「労働基準法:労働法コンメンタール」に学ぶ

第12章   雑則

第113条 「命令の制定」   

この法律に基づいて発する命令は、その草案について、公聴会で労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者の意見を聴いて、これを制定する。



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