明治5年、日本初の博覧会が京の都で開催された。。…その陰で正倉院の宝物が権力の魔手で…

火坂雅志を読む⑤

実業の日本社発行 火坂雅志著  「骨董屋征次郎京暦

遊壺堂

京、八坂塔下夢見坂の骨董屋遊壺堂主人柚木征次郎を取り巻く人間模様の物語。
骨董は魔道。生半可な気持ちで足を踏む入れると間違いなく大やけどをする。
征次郎は柴山抱月のもとで修行したが自ら幾多の失敗も経験している。
心癒されるのが先斗町の小料理屋つる栄に勤める小染とのやりとり。京の風物と京都弁が彩っていく。おかみがかぶら蒸を運んでくる。
あんかけをした熱々の蒸しものを箸でほぐすと、なかからギンナン、百合根、生麩、焼きあなご、ひと塩ものの甘鯛が出てくる。手間のかかった京の冬の味。

敦盛

「これは上野か」干した盃を裏返し高台をつくづく眺め逸馬が言う。
「ちょっと目には唐津のようだが間違いなく上野だ」その違いが分かるとはたいしたものだ。
佐伯逸馬は征次郎の店をしばし手伝う。幕末の頃尊皇攘夷派だった逸馬は佐幕開国派を京で斬りまわっていた。人を斬るとき敦盛の面をつけていた。敦盛の逸馬。
篝火が焚かれた。星屑の散った夜空に銀色の火の粉を舞い上げる。上賀茂神社で行われる薪能の征次郎は逸馬を誘う。夏の訪れを告げる夏越祓の日。
演目は敦盛。餌に釣られてもう一度逸馬が犯そうとする過ちを諭す。「人は業を背負いながら生きていく。骨董にも業がある。もの言わぬ茶碗や壷は数知れない人の生き方を見てきている。業を住み重ねたから骨董も美しいのだろう。
廃藩置県の詔勅が下り、全国の武士はその年職を失う。この夏陰暦7月14日。

五条坂

京の東山に五条坂がある。清水の向かう途中に数多くの陶工が登り窯をひらいている。30を越える窯がある。
この五条坂で腕を鳴らした陶工に耕雲がいたが、酒と喧嘩がもとで超一流の贋物造りに成り果てる。自分の仕事に絶対の自信を持っている。
おのれの贋物つくりに微塵のやましさを持っていないのだ。
だから贋物特有のいやな感じが出ていない。しかし、あんたの焼き物をあんたの作品と認めていない。あんたは誰かに利用されているだけだ。
征次郎は耕雲の心を解かそうとした。そんな征次郎を数人が襲う。加賀金沢藩武士のはしくれ征次郎の腕は確か。京の裏社会のやくざとの闘い。
耕雲は娘の一言で目を覚ます。何が本物で何が贋物か。その違いを娘が心得ていたのだ。
その日を境に耕雲の贋物が出回らなくなった。しかし五条坂の不景気はあいかわらずである。

夢見坂

流出御物の三十六歌仙絵が政府高官のもとへ流れる。
それを政商が買い取る。高官にたんまり差額が入る。
政商と府参事がお互いの利権を確保する。それを征次郎は許せない。
時の海を渡ってきた美の化身である骨董をそんな薄汚い賄賂の手段に使われてなるものか。

小染が裏筋に襲われる。東山泉涌寺と東福寺の間に横たわる渓谷、羅刹谷に呼び出される征次郎。「参事がうるさい蝿は目障りで消しておくに限るのだとおっしゃるのだ」「文明開化の世の中、古きよきものは守るのが骨董屋だ」「うるさい、やっちまえ」
そのとき香具師の文治郎が言った「もういいんじゃないか」「その骨董屋の言うことが筋だ、俺たち香具師も道は踏み外さない、おれは筋の通った男が好きなのさ、行きな」

雨上がりの羅刹谷には暮れ方の薄闇が満ちていた。…かそこそと乾いた落ち葉が足元をかすめていく。北野天満宮の終い天神が過ぎるとじきに正月支度をしなければならない。夢見坂の下に寺々の大屋根や町家の黒屋根が連なる京の町が広がっていた。京の町を愛宕颪が吹きぬける。

小染と征次郎がゆるやかな夢見坂を歩く。「なにがあってもおれはこの夢見坂で生きていくよ」「征さんの行く道なら私もついて行きます」「苦労するぞ」「苦労するのが夫婦でしょ」
茶碗に茶渋が沁みつき、骨董として妙味が増していくように、男と女も歳月が深みを作っていくものだろう。厄除けの赤いくくり猿が軒先で揺れる夢見坂を二人は下った…

火阪あとがき

掘り出し物を見つけたときの感動、くらくらするような興奮はこの道に足を踏み入れたものでしか分からない。骨董は背後にさまざまな物語を背負っている。命がけの一品のストーリでとてつもなく魅力的にただの酒盃がなる。歳月の襞。人間も同じだ。生きてきた分だけ刻まれた皺にその人の魅力がある。征次郎と小染はこの先どう味わいを増すか、見守って行きたい。

京暦とあるが、まさに京の季節感満載の物語。波乱万丈型が多い火坂作品にしては、舞台がしっくり京に落ち着いている。元染付け馬上盃など豊かな骨董の話と京の酒と鯖すしなどつまみ話、そして辰巳新地の芸妓話など京の風情が語られ思わず生唾さえ生じさせる。
京の暦が背景になる柔らかな反面、ストーリーは厳しい。明治5年8月、政府は正倉院を開封し調査。点検目録を作成した。以後、宝物の流失が止んだ。
新政府の内部争いと正倉院宝物の横流し資金…国の宝を権力争いで外国に流失させるという恐ろしい構図が覗かされる初版第1刷だった。


ブログランキング
http://jobranking.net/44/ranklink.cgi?id=1346




ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック